仅供参考。。
家の前に立てられた手書きの看板は、今日も通りすがりの人々の失笑を買っていた。
「母さん、妖精って本当にいるの?」
「おとぎ話よ。いるわけないじゃない」
「いいえ、いるわ」
「妖精はね、見えなくてもちゃんといるの。寝る前に、コップに入れたミルクを窓辺に置いておくと、ブラウニーがやって来るわよ」
「リディア、いくら言ったって無駄《むだ》さ。妖精が見えない奴は一生見えない。信じない奴は、妖精に蹴られたって気のせいだと思う。まあのんびりやれよ」
「ねえニコ、どうにかして妖精博士《フェアリードクター》の仕事を理解してもらう方法はないものかしら」
「そうは言ってもなあ。フェアリードクターがあちこちにいて、妖精がらみのトラブルが日常的に起こって、人々に知恵を求められた時代は終わったのさ。今はもう、十九世紀もなかばだぜ」
「でも、妖精はいなくなったわけじゃないわ。人のそばにいて、いいことも悪いこともするのに、誰もが無視してるなんておかしいと思わない? 見えないってだけで、どうしていないことになってしまうの?」
「あの……、郵便ですけど……」
「あ、ひとりごとじゃないのよ。今そこに猫がいたの」
「いえ、本物の猫じゃなくて、ちゃんと話せる猫……」
「こらっ、何してるの! 手紙にいたずらはやめなさい!」
「……ごめんなさい。ブラウニーってばほんと、いたずら好きで」
「またやっちゃったわ」
「何だよ、新入りの郵便配達員に退《ひ》かれたくらいで落ちこむなよ」
「おまえのせいよ」
「ちょっとニコ、これ父さまからの葉書よ。ロンドンへ来ないかって言ってるわ。復活祭《イースター》を一緒に過ごそうって」
「行くのか? ロンドンは物騒《ぶっそう》だぜ」
「そうね。でもどうせ、大物強盗に会ったって、あたしには大金なんてないもの」