檻の中の花
殺戮(さつりく)の舞台(ぶたい)女優(じょゆう)『Michele Malebranche』
彼女(かのじょ)が犯罪史(はんざいし)の表舞台(おもてぶたい)にと登場(とうじょう)する事(こと)三度(みたび)に渡(わた)り、
その短(みじか)い生涯(しょうがい)に於(お)いては多(おお)くの奇怪(きかい)な謎(なぞ)が残(のこ)されたまま
今(いま)だ完全(かんぜん)には解明(かいめい)されていないのである。
(初舞台「パパの幸せを描いてあげる…」en 21 novermbre 1887)
実父(じふ)『Joseph Malebranche』の凄惨(せいさん)な変死事件(へんしじけん)
証拠(しょうこ)不十分(ふじゅうぶん)及(およ)び、年齢(ねんれい)に対(たい)する
殺害遂行能力(さつがいすいこうのうりょく)に疑問(ぎもん)の声(こえ)が上(あ)がる。
現実(げんじつ)と幻想(げんそう)の境界(きょうかい)を認識(にんしき)出来(でき)ていない類(るい)の言動(げんどう)を繰(く)り返(かえ)し、
行動(こうどう)にも尋常(じんじょう)ならざる点(てん)が多々(たた)見受(みう)けられた…。
(識られざる幕間劇)
鮮朱から冷蒼へ(De rouge vif au bleu froid)移(うつ)り変(か)わる 舞台(ぶたい)の上(うえ)に女優(Actrice)を呼(よ)ぶ
街角(まちかど)の影(Silhouette)手招(てまね)くのは 闇(Tenebres)を纏(まと)った貴婦人(Damenoble)
素早(すばや)く抱(だ)き寄(よ)せ 首筋(くびすじ)に熱(あつ)い接吻(Baiser)
少年(Garcon)の液体(Sang)は仄甘(ほのうま)く 血赤色(Rouge)の陶醉感(ゆめ)を紡(つむ)ぎ
永遠(とわ)の夜(Nuit)に囚(とら)われた 花(Fleur)は咲(さ)き続(つづ)ける…
(二度目の舞台「もう一度この手で彼女を…」en 30 juillet 1895)
養父(ようふ)『Armand Ollivier』の手(て)による絞殺(こうさつ),死体遺棄未遂事件(したいいきみすいじけん)
深夜(しんや)、半狂乱(はんきょうらん)で笑(わら)いながら庭(にわ)に穴(あな)を掘(ほ)っている所(ところ)を、
近隣住民(きんりんじゅうみん)の通報(つうほう)によって駆(か)けつけた警察官(けいさつかん)に拠(よ)り逮捕(たいほ)。
その後(ご)、『Ollivier』は獄中(ごくちゅう)にて完全(かんぜん)に発狂(はっきょう)した…。
(識られざる幕間劇)
鮮朱から冷蒼へ(De rouge vif au bleu froid)移(うつ)り変(か)わる 舞台(ぶたい)の上(うえ)に女優(Actrice)を呼(よ)ぶ
街角(まちかど)の影(Silhouette)佇(たたず)むのは 闇(Tenebres)を纏(まと)った令嬢(Mademoiselle)
激(はげ)しく愛(あい)して 花弁(Un petale)が朽(く)ちるまで
女(Michele)の勘(かん)を甘(あま)くみないで 貴方(Monsieur)が愛(あい)してるのは
しなやかな若い肢体(Jeunesse corps) それは…『私』(Bobo)じゃない…
(三度目の舞台「少年の液体は仄甘く」en 4 fevrier 1903)
『Michele Malebranche』による青少年連続拉致殺害事件(せいしょうねんれんぞくらちさつがいじけん)
『Rouen』郊外(こうがい)の廃屋(はいおく)にて多数(たすう)の腐乱死体(ふらんしたい)が発見(はっけん)される。
当時行方不明(とうじゆくえふめい)となっていた13人(じゅうさんにん)の少年達(しょうねんたち)は、変(か)わり果(は)てた姿(すがた)で
干乾(ひから)びたような老婆(ろうば)『Michele』の遺体(いたい)に折(お)り重(かさ)なっていた…。
(自称...天才犯罪心理学者『M.Christophe Jean-Jacques Saint-Laurent』曰く)
「彼女(かのじょ)がどんな魔法(まほう)を駆使(くし)したのか、それは私(わたし)が識(し)り及(およ)ぶ所(ところ)ではないのだが、
殺害動機(さつがいどうき)という観点(かんてん)でのみ論(ろん)じるならば、答(こた)えは明白(めいはく)であると言(い)わざるを得(え)ない」
「彼女(かのじょ)は、自(みずか)らを閉(と)じ込(こ)め狭(さま)い檻(おり)の中(かな)から抜(ぬ)け出(だ)したかったのでしょうな…それも極(きわ)めて偏執的(へんしつてき)なまでに。
…...しかし、残念(ざんねん)ながらその願望(がんぼう)は生涯(しょうがい)叶(かな)うことは無(な)かった。
...そして、死後(しご)1世紀(いせいき)を経過(けいか)した今(いま)でも、彼女(かのじょ)はその檻(おり)の中(なか)にいる…」
「…何故(なぜ)そんな事(こと)が断言(だんげん)出来(でき)るのか?...良(よ)い質問(しつもん)だ。よろしい、誤解(ごかい)を招(まね)く事(こと)を承知(しょうち)で、
この『Christophe Jean-Jacques Saint-Laurent』あえてここで公言(こうげん)しておこう。
我々(われわれ)もまた、彼女(かのじょ)と同(おな)じ檻(おり)の中(なか)にいるからだと…」
(『Michele Malebranche』の手記に遺されていた詩の断片)
檻(Cage)の中(なか)で咲(さ)き乱(みだ)れ 枯(か)れ朽(く)ち果(は)てる前(まえ)に
愛(Amour)を失(な)くしたこの世界(せかい)に… 捧(ささ)ぐ…お別れの挨拶?(Au revoir)